効果的なフロア設定型戦略のアート
2020年の初めに新型ウイルスのニュースが出た時には、それが世界経済と金融市場に対して与え得る影響を予見することは不可能であったと思われます。2月下旬から、世界の主要株価指数の価格が急落し、3月16日、S&P500は12.0%のマイナスと、1987年10月19日のブラックマンデー以来、1日での最大の下落率を記録しました。EURO STOXX 50も12.4%のマイナスで、1986年の導入以来、1日の下落率が最大となりました。いわゆる“ブラック・スワン”が市場参加者の意表を突く局面で、とりわけフロア設定型戦略の重要性が明らかになりました。
ブラックスワン:予想できないが、起こり得る
“ブラック・スワン”という言葉は、古代ローマの風刺家ユウェナリスに由来しており、忠実な妻を意味していました。稀少な黒い白鳥が実際にヨーロッパで発見されたのは1697年のことであり、このようにして極めてあり得ないが可能性のある出来事の比喩が生まれました。コロナ危機は国際金融市場に予想外の衝撃を与え、大規模な価格下落を引き起こしました。市場の調整は珍しいことではありませんが、その引き金となる出来事は、1年前にはほとんど予見されていなかった点で正にブラック・スワンが現れたと言えます。
極端な損失が分析的に予測、或いは推定されていなかったとしても、堅牢で科学的に健全な戦略を用いれば、投資家は極端なシナリオに備えることが可能だと思われます。このような戦略は、予測できない事象があるという認識に基づいています。当社のフロア設定型戦略のような非予測的アプローチ(フォーキャスト・フリー)は、その強みを実証することが可能です。
フロア設定型戦略は最大損失を明確に定義することから始まります
とりわけ、超低金利、時にはマイナス金利では、投資家は目標リターンを達成するために、より高いリスクを負わなければならず、そうした状況下では、投資家自身のリスク許容度を容易に超えてしまうことになり兼ねないと思われます。リスクが見通しにくい場合、すなわち最初はリスクが低いように見えてもその後に大きなリスクを負うようになる場合、その傾向が顕著になると思われます。特に機関投資家は、社内規定上の制限と規制要件によりリスクを制限しつつ、目標リターンの達成を求められることが多い為です。
機関投資家も個人投資家も、想定される損失が事前に明確に定義されていれば、はるかに安心感を得られますが、これは現在、行動経済学で理論的にも裏付けられていると思われます。
フロア設定型戦略では、最低ポートフォリオ価値を固定することで、起こり得る損失が明確になりますが、ここではリスク予算が、ポートフォリオ価値とフロアとの差額として定義されます。堅牢なフロア設定型戦略では、リスク予算を完全に使い切ることがない為、キャッシュ・ロックが回避され、常時、投資行動を取り続けることが可能であり、投資家は起こり得る最大損失額を考慮に入れて投資計画を立てることができます。
損失の制限は、中期的に目標リターンの達成を危うくすることなく、確実に行われなければなりません。ゆえに、“信頼できる”ことが重要なのです。
リスク予算の有効的な活用が肝心です
現在でも、古典的なフロア設定型戦略 - いわゆる "コンスタント・プロポーション・ポートフォリオ・インシュランス" – CPPIが提供されています。簡単に言えば、この戦略は、価格が下落するとそれに比例してポートフォリオを常にヘッジしますが、そのパラメータは、緊急的なリスク削減なしに一定のポートフォリオ価値を維持できるような方法で選択されています。
この許容可能な損失水準が比較的大きく設定されている場合、信頼性の高いCPPI戦略はフロアを維持することになります。しかし、この単純なヒューリスティックは、価格が上昇したときに買い、下落したときに売るというプロシクリカルな現象も引き起こします。つまり、常に「高い時に買い、安い時に売る」パターンに従って、不利な売買結果をもたらし、市場動向によって(特にボラタイルで方向感のない市場において)は高い戦略コストに繋がると考えられます。
一方、許容可能な損失額が低すぎる場合、フロアが守られないリスクがあり、またリスク予算が使い切られてしまい、その後の市場回復への参加が不可能となる状況 “キャッシュ・ロック”、に陥るリスクも高まると考えられます。従って、リスク予算を上手く取り扱うことが、市場が危機に直面した場合でも運用の継続が可能になる為の鍵となります。
動的なフロア設定型戦略としてのオプション・レプリケーション
徹底した研究と長年の経験に基づき、メッツラーのフロア設定型戦略は、オプション・レプリケーションの原理に基づいています。従来のCPPIアプローチとは対照的に、例えば株式と債券の比率は一定ではなく、“ベスト・オブ・ツー”システムを採用しており、リスク予算に加えて、資産クラスの相対的なパフォーマンスが資産配分の決め手となります。つまり、ポートフォリオは常により魅力的な資産クラスに再配分されます。オプション・レプリケーションは、デルタ・ヘッジされたポートフォリオのペイアウトプロファイルを、流動性のある先物によって生成(複製)します。
効率的な資産配分を行うためには、投資対象の選択が非常に重要です。標準的なメッツラーのフロア設定型戦略では、株式エクスポージャーとデュレーション管理の為、流動性の高い上場先物のみを使用しています。これらは、市場にストレスのかかる時期でも、常時、取引が可能であり、ビッド・アスク・スプレッドも技術的に可能な範囲で最小であり(年間10ポイント以下)、非常にコスト効率に優れていると言えます。
フォーキャスト・フリー:つまり予測リスクがありません
限られたリスク予算を効率的に活用する為のもう一つの重要な要素は、一貫して無用なリスクを回避することです。例えば、流動性リスクや信用リスクを取ることは、危機発生時においても運用継続が可能な状態を維持するという目的とは相容れないと考えられます。
例えば、現在のコロナ危機でも、2008/2009 年のリーマン危機でも、社債は流動性の問題から大幅なディスカウントでしか売ることができない状況であったと思われます。
しかし、当社の考えでは、最も重要な回避可能なリスクは、予測リスク、すなわち意見や推測、気分などがパフォーマンスに悪影響を及ぼすリスクであると考えています。ルールベースのアプローチは、予測やトレンドに対する期待とは無関係に運用されます。このようにして、「市場上昇への参加と下落に対する下値ヘッジ」という目的を、信頼的かつ反復的に達成することが可能になっているのです。
当戦略の代表ファンドの長年の実績から、メッツラーのフロア設定型戦略が期待通りの成果を上げていることがわかります(図1参照)。この代表ファンドは、毎年7%のリスク予算で運用を開始します。図2は、2008年以降の各年に、リスク予算がどの程度追加的に積み上がったか(青)、あるいは使用されたか(水色)を示しています。水色の部分とゼロ線の間の距離が、残りのリスク予算を示しています。図中で示されたすべての重要な局面において、期初のリスク予算の少なくとも約3分の1が維持されていたことがわかります。これは、運用が継続され、当戦略がその後の市場回復に参加することが可能なことを示します。
このようにリスク予算を上手く取り扱うことが、常に目標リターンを達成するための前提条件となります。リスク予算が確実に守られるだけでなく、安定して十分なリターンまで達成される素地がある為(図1参照)、この強固なフロア設定型戦略は、決して危機時においてだけ魅力的な戦略ではないと考えています。
フロア設定型戦略はフロアの維持に留まらない
特にコロナパンデミックのようなブラック・スワンの出現は、すべてのフロア設定型戦略が同じではないことを示しています。資産保全の概念は、モデルが不測の事態の時にも機能し、確実にポートフォリオ価値の損失を制限する場合にのみ意味があると考えています。また結局のところ、ポートフォリオは損失を受けた後に、再び市場の上昇に参加しなければならないことは、忘れてはならない大切な要素だと思われます。このようにして初めて、長期持続的に投資の価値が維持されると考えられます。